IBM訴訟の否認は行為計算不当だった
IBM訴訟事件で国税当局は、行為計算否認の権限発動で、自己株式取得によるみなし配当を単純配当に置き換える更正処分をしています。
この置き換え内容が、私法上真正に成立している法律関係をより適切なものに組み替えることに成功しているか、には疑問が湧きます。
そもそも、税法が創り出した制度の適法的利用を、国税当局が別な、より適切な行為や計算に置き換えることなど、困難なのではないかと思われます。
法制度の濫用抑制には趣旨目的解釈
最近は、都市銀行による外国税額控除余裕枠彼此流用事件、旺文社HD事件などを経由して、立法趣旨目的論的解釈などを介しての節税・租税回避の行為計算に対する適法外しの傾向が拡大方向にあります。
趣旨目的解釈への傾斜は、立法時に予測できなかった行為によって、多額の租税が軽減され、執行当局がいらだちを募らせていることの、表れなのかもしれません。
趣旨目的解釈は使いにくい
趣旨目的解釈が行われると、対象となる行為は、すべて適法であるとの前提である租税回避行為という分類から外れ、違法行為との判定を受けることになります。違法となると、制裁の内容も異なってきます。
ただ、趣旨目的解釈により制度の適用を否定することは、法令に不文の要件を付加することにほかならず、文理解釈重視により法的安定性と予測可能性を確保しようとする租税法律主義の立場からは否定的に見られています。
個別否認規定を網羅している税法
行為計算否認規定は今や大企業税制に近く、この規定を根拠に否認された経験を持つ税理士は滅多にいないと思います。
税制改正の歴史は、否認したい行為を個別に網羅してきた歴史とも言え、租税回避行為の防止は常に税制改正の中心テーマだった、とも言えます。
租税回避行為防止は、行政権・裁判権の課題であるよりも、立法権の課題である、というのが本来的理解であるべきです。
立法的解決の方向は
個別否認規定を盛り込むことのほか、今や、租税回避策の義務的開示制度の導入、一般的租税回避禁止規定の立法化が検討の重要局面にさしかかっているようです。