平成29年度税制改正で、国税犯則取締法(以下、国犯法〈こっぱんほう〉)は廃止され、国税通則法(以下、通則法)に編入されました。
なお、施行は、平成30年4月1日からです。
国犯法は、明治23年に創設され、明治33年に全部改正(ほぼ現在のかたちとなる)、そして、戦後、昭和23年に改正され現在に至っています。条文は、旧仮名遣いのカタカナ表記で、まさに戦前を色濃く残しています。
この国犯法は、いわゆるマルサの強制捜査の法的根拠となるもので、その手続き及び権限等を定めたものです。
扇動罪なるもの
国犯法第22条1項に、「扇動罪」なる規定があります。この条文、戦前の「治安維持法」をほうふつさせますが、伝家の宝刀のようなもので、戦後、抜かれたこと(適用されたこと)がないのでは、と思いきや、何と、昭和27年にこの扇動罪が適用された事実がありました。驚きです。沼津市で起きた事件で、その概要はこうです。
平和のために再軍備の徴税に反対しよう、というビラを新聞紙に織り込んだり、喫茶店のテーブル席に置いたりしたのが発端でした。言論の自由を保障した憲法に反するとして最高裁まで争ったのですが、以下のように判示され敗訴しました。
国犯法第22条1項にいう扇動とは、他人に対して、その行為を実行する決意を生じせしめるような、またはその決意を助長させるような刺激を与えることをいい、この扇動罪はそのような行為があったことによってただちに成立し、必ずしも、相手方においてその結果を生じたこと等の認識又は了解することを必要としない。
通則法への編入
通則法においては、新たに第11章「犯則事件の調査及び処分」が設けられ、ここに国犯法が編入されました。条文をめくっていっても、この第11章には「扇動罪」なる条文が見当たりませんでした。現況の納税環境下にあっては、このような「扇動罪」なる条文は不要との観点から削除したのか、と思いきや、何と、現行法第10章「罰則」第126条第1項に編入されていました。
この扇動罪、ほとんど議論のないまま通則法に編入されたことに、何か違和感を覚えます。