所得税法の原理的欠陥が生み出す
所得税法では、所得を把握することの規定と、それに伴う資産の取得についての規定が必ずしも複式簿記の貸借一致の原理のようには定められていないため、重複課税が起きることがあります。
例えば時効取得について
例えば、取得時効により資産を無償取得の場合です。測量により隣家敷地の長期占有が判明したことに際し、取得時効を主張して自己のものとしたときは、一般に一時所得に該当するとされています。
一時所得課税と譲渡所得課税
その取得時効部分の土地の時価が1千万円だったらその価額で課税されます。
(借)土地〇〇〇/(貸)一時所得収入〇〇〇
次にその部分を同年中に1千万円で売却したら再び1千万円の譲渡所得が計算され、同一年内に重複課税が起きます。
重複課税となる理由
資産の取得費は、その資産の取得に要した金額とされていて、時価課税された金額が取得費になるとの規定がないので、時効援用による資産の無償取得の取得費はゼロとなってしまうからです。
遺失物の取得や無主物、埋蔵物、景品等の取得についても同じ現象がおきます。
重複課税されない例外ケース
しかし、ストックオプションという無償取得の場合は重複課税になりません。
(借)有価証券〇〇〇/(貸)給与収入〇〇〇
として、給与課税されるとともに、その金額が有価証券の取得価額となります。同時に売却した場合、譲渡益はゼロになるので重複課税されることはありません。
実務上重複課税が回避されているケース
また、広告宣伝用の資産として車両などを受贈されたときも、取得時に経済的利益に対する時価課税がされ、
(借)車両〇〇〇〇/(貸)事業収入〇〇〇〇
取得車両はその経済的利益の額を取得価額として減価償却の対象にされるとともに、譲渡するときは、その未償却残額は譲渡収入から控除され、重複して利益に課税されることはありません。
必ずしも原理的に一貫していない
課税の有無は原理的なものではありません。相続贈与という無償取得の場合の相続税贈与税と所得税の重複課税も、共有持分の放棄や、二重課税排除の年金判決の場面では原理的な一貫性が毀損しているのと似ています。