法人の場合と違って、個人事業者の場合、事業を開始した「日」及び「年(課税期間)」を特定することには、若干、困難を伴うこともありますが、税務上の手続きにおいては重要です。
所得税の場合は、原則、事業を開始した日から2ヶ月以内に青色申告承認申請書を税務署に提出することで、税務上の特典が受けられますし、一方、消費税の場合には、事業開始の日の年に課税事業者選択届出書を税務署に提出することで、その年の消費税の還付を受けることができます。
所得税の場合
所得税の場合は、事業開始のための開業準備期間は、事業を開始した日には当たらないようです。
裁決、裁判では、診療所開設のための準備期間(1年以上かかるケースも)は、事業を開始した日にはあたらないとし、具体的に診療行為が行えることとなった日等が事業を開始した日と解しています。
それでは、事業を開始するまでの間に特別に支出した宣伝費、調査費、借入金の利息(資産取得の利子は当該資産の取得費に算入)、土地、建物などの賃借料等の、いわゆる開業費はどうなるか、ですが、繰延資産として、事業開始の日から5年間で費用化(償却)していく取扱いになっています。
消費税の場合
では、消費税も同様か、ですが、どうも消費税の場合、課税資産の譲渡等がない開業準備期間も事業を開始した日の属する課税期間(年)に含まれるようです。
歯科診療所を開設した医師が所得税の例にならって、具体的に診療行為ができる状態になった年に課税事業者選択届出書を税務署に提出、その年に引渡しを受けた診療所の建築費及び医療設備等の課税仕入れに伴う消費税の還付申告をしたところ、審判所は次のような裁決を下しました。
「法解釈上、事業遂行に必要な準備行為をした日の属する課税期間も事業を開始した日の属する課税期間に該当すると解するのが相当である」とし、課税資産の譲渡等が生ずる年の前年(開業準備行為に着手した年)に課税事業者選択届書を提出していない限り、原則、届出書の効力は提出した翌課税期間らの適用になるとして、医師の還付申告を棄却しました。
しかし、この裁決、事業を開始した場合の手続きを所得税と消費税を特段、区別しなければならない課税上の弊害があるのでしょうか、疑問です。