平成22年度税制改正前
法人税では、適格吸収合併であっても、被合併法人(消滅会社)の欠損金を引継ぐことはもちろんのこと、合併法人(存続法人)の欠損金の利用についても厳しい制限を設けています。理由は、被合併法人の収益力や含み益資産を引継ぎ、合併法人の欠損金の早期償却などの租税回避の防止です。
改正前では、支配関係の合併にあっては、5年間の資本関係の継続、一方、それ以外の合併の場合は、共同事業要件(事業規模、特定役員の就任等)を満たすことが欠損金利用の前提でした。過去に、合併法人がこの制限規定をうっかり失念し、意図しない結果を招来させてしまうようなことがありました。その内容は、こうです。
意図せざる罠
合併法人では、会社存続のために、不要不急資産の売却、事業の分割・整理統廃合、早期退職、人員整理などで多額の欠損金を計上し、翌期以後5、6年以内でこの欠損金を回収できる事業再生を実施しました。
1年経過後、リストラの効果で会社の業績も順調で、3年目に先にリストラで分割した子会社を理由があって、適格吸収合併しました。
単に、子会社を元に戻す合併ですが、この時点で、資本関係5年を満たしていないという理由で、合併法人の①支配関係事業年度前に生じた欠損金及び②支配関係事業年以降の欠損金のうち特定資産の譲渡等損失額からなる一定の金額は利用できない、という思いもよらぬ結果を招来させました。
平成22年度の税制改正以後
この欠損金の制限規定には、少なからず批判がありました。そこで、課税当局は、平成22年度の税制改正で、支配関係が5年なくても、被合併法人等の設立の日から継続して支配関係がある場合には欠損金の利用制限を外すことにしました。
これにより、分割した子会社を5年以内に適格吸収合併しても、上記のような悲劇を招来させることはなくなりました。
罠は取り除かれていない
支配関係が設立当初からある子会社の場合は該当しますが、これが、まったく資本関係のない会社(会社規模を問わず)を適格吸収合併する際には、共同事業の要件を満たすか、あるいは、合併法人の保有資産の含み益が欠損金額を上回っていない限り、合併会社の欠損金の利用は制限されます。失念は、許されません。