最高裁の遡及立法擁護判決
平成16年の土地建物の譲渡所得と他の所得との損益通算を廃止する税制改正は年初への遡及適用だったことによる、遡及課税が許されるかを争った裁判がいくつも起きていました。
「租税法規不遡及の原則に違反し違憲無効」とする判決、合憲とする判決がそれぞれあり、最高裁にまで争訟はつづき、平成23年9月22日最後の判決がありました。
租税法律主義の憲法規定は遡及立法による課税を禁止していない、との判決です。
遡及立法ではないとの理由
合憲判決によると、所得税は期間税なのだから、納税義務の確定日としての12月31日からすれば遡及には当たらない、と言います。しかし、納税義務の確定日は暦年終了日とは限らず、年中に死亡とか、海外出国の場合は3月31日以前に納税義務が確定してしまいます。理屈が通りません。
また、不動産取引など一生に1度か2度かのもので、同年中に別な取引をすることなどほとんど有り得ないので、改正法下では、一度の行為時点で納税義務の内容は実質的に確定してしまいます。それを、形式論で歴年末での納税義務確定などと言うのは詭弁です。
遡及立法も許す緊急性があるとの言い草
適用を4月以降とすることが憚られるほどの緊急の遡及立法の必要性をのべています。それなら、不動産税制の改正のテーマが政府税調の中で議論されたのはこの立法時の2年前で、なぜのんびりしていたのか説明がつきません。
土地と株式の課税不均衡是正が緊急課題とも言いますが、ゴルフ会員権の譲渡損を総合課税に今なお据え置く不均衡はなぜ放置しているのか? 説明がつきません。
地価下落防止の緊急性も説いていますが、その年の通常国会提案立法に地価がらみのものは一つもありません。土地需要抑制の為の土地利息必要経費不算入規定も放置したままです。地価対策が焦眉の政治テーマだった事実はありません。
武富士贈与税回避判決と同じ裁判官
香港に居住地を移して武富士株を贈与するスキームを争った事件の判決では、国側敗訴で、1330億円の還付金とそれへの還付加算金が国の負担となり国庫が枯渇したと言われています。遡及立法違憲事件と同じ裁判官でした。同一人格者の判決とは思えないところです。