息子に新規の会社を設立させて、親がオーナーの会社の主要な事業と資産を息子の会社に無償で吸収分割させて、親の会社はもぬけの殻にしてしまっても適格組織再編として課税関係が生じず、株主構成を根本的に変える効果を発揮してしまう・・・。
非按分型適格組織再編
しかし、こんな話は聞いたことありませんでした。この行為は無対価組織再編と言われています。無対価組織再編なんていう言葉は聞くだけで難しそうだな、という印象を受けます。でも、大会社のグループ内再編では無対価組織再編は通常のことで、会計基準もあります。
ただし、税法については今年の改正によってはじめて「無対価」という明文の規定創設がされたところです。とはいえ、明文規定の有無に拘わらず、現実に無対価組織再編は行われていたので、現行税法規定で律せられていたところです。
実行には勇気がいるがもう間に合わない
新規定は今年10月1日から適用ですが、9月30日までの法律では、適格会社分割については、分割承継法人の株式以外の資産が交付されないもの、としていました。無対価はこの規定に合致していたのです。組織再編では無対価は適格に含まれる行為で、その結果冒頭の事例のようなスキームが企図され、あり得ないと言われていた非按分型適格組織再編が実質的に可能になってしまっていたと思われます。
目的を以てさりげなく改正
無対価に係る明文規定創設の目的は非按分型組織再編潰しと思われます。改正規定の最も典型的なものは「一の者」という言葉です。これに触れている解説書は今のところ皆無なのですが、この言葉は法律と政令に100回近く出現します。9月30日までの法律では例外なく、個人の場合は「一の者」の後に( )書きをつけて、同一親族グループを意味するものにしていました。それが10月1日以後の法律では、組織再編の場面ではことごとく( )書きのない「一の者」になっています。
知られないままの封じ手
冒頭の事例のような、父親の会社と息子の会社は、新規定では、別々な「一の者」により支配される会社になりました。10月以降は、冒頭の事例は適格要件を欠く組織再編の事例ということになりました。
多くに知られないまま封じられることになった節税策だったのかもしれません。